はじめに:外出を”あきらめる”親たちがいる
お出かけ日和の週末、子どもと一緒に楽しく外出。しかし、そんな幸せな時間の最中に「授乳室が見つからない」「おむつを替える場所がない」という壁にぶつかり、泣く泣く予定を切り上げて帰宅した経験はありませんか?
国土交通省が発表した「子育て世代の外出先での授乳室・トイレ利用等に関するアンケート調査結果報告書(令和7年9月)」から見えてきたのは、設備不足や不満が子育て世代の「外出への意欲」を削ぎ、お出かけの“途中離脱”を生んでいるという切実な実態です。
施設や自治体が、子育て世代を本当に呼び込むために必要なヒントをデータから紐解きます。
データで見る「授乳室がない」問題の深刻さ
困りごとの第1位は「授乳室がない」
外出時の授乳・搾乳に関する困りごとを複数回答で尋ねたところ、最も多かった回答は「授乳室がない」で、回答者の60.0%(6,005人)が選択しています。
それに続く項目も見逃せません。例えば、「授乳室が混んでいて使えない(35.6%)」「授乳室がどこにあるか分からない(40.8%)」「衛生管理が不十分(40.7%)」——いずれも40%を超えており、授乳室の「数」だけでなく「質」「可視性」にも大きな課題があることが分かります。

授乳室があっても使えない:設備面の問題
また、授乳室が設置されていても、それが利用者目線で「使える授乳室」かどうかというのはまた別の話です。今回の調査では、空間・設備面の困りごととして以下が挙げられています。
- ベビーカーを置くスペースがない:54.6%(6,005人中最多の設備系困りごと)
- 荷物を掛けるフックがない:37.9%
- 机がない:29.6%
- シンクや給湯設備がない:27.8%
授乳は、ただ座ってミルクを与えるだけではありません。おむつ替え、調乳、着替え、ベビーカーの管理——それら一連の行動を「狭い空間でベビーカーも持ち込めず、荷物を置く場所もない」状態でこなさればならないのです。リアルな子育て経験無い人たちにはこの苦労は決して分かりません。
「途中離脱」のメカニズム
選択肢になる「車内授乳」と「外出自体の断念」
続けて、外出先での授乳場所として「自家用車内で対応する」を選んだ人は全体の60.5%(6,161人)にものぼります。この数字は、「授乳室がないから仕方なく車に戻る」という行動の結果です。
特に注目したいのは地域差で、三大都市圏では51.3%が車内授乳を選択するのに対し、その他地方圏ではなんと 74.0%——実に22.7ポイントの差があります。地方では授乳室の絶対数が少なく、「施設の中に戻れない→車で対応→そのまま帰宅」という離脱の流れがより起きやすい構造と言えるのではないでしょうか。
自由記述に、このような声があります。
「田舎に住んでいますが、地方は授乳室の数は本当に少なく、あったとしても衛生管理が心配な場所が多いです。そのため、こどもに母乳を与えている時期は3時間以上の外出を控えていました。」
「3時間以内に帰宅しなければならない」という制約は、外出先での消費行動や滞在時間に直接影響します。
飲食、買い物、観光——それらすべてが「途中で切り上げ」の対象になるのです。
授乳室が施設選択の決定打になっている
では、授乳室の有無は施設選択にどれほど影響するのでしょうか。
「授乳・搾乳ができる場所や子連れのためのトイレがあることが、その施設を優先的に利用することにつながるか」という問いに対し、「とてもそう思う(79.8%)」「ややそう思う(18.1%)」の合計は97.9%に達しています。
裏を返せば、授乳室がない施設は、子育て世代から「行かない施設」に振り分けられるリスクが非常に高いということなのです。
情報が「ない」ことも離脱の引き金になる

授乳室があっても、それが「あると分かる」状態でなければ意味をなしません。
調査では「フロアマップに授乳室・トイレの有無や設備に関する情報を載せてほしい」が88.3%、「施設のホームページに掲載してほしい」が82.0%という高い支持を得ています。
意外と自治体の方々も商業施設の方々もこの点には余り気を使われていないような気がします。施設のフロアガイドや案内に「授乳室」が記載されているのは、まだまだ非常に少ないのが実情です。
実際、自由記述では、こんな意見も寄せられています。
「授乳室、トイレともに、施設の公式ホームページでなく個人のブログなどで調べないと出てこない場合が多いので、施設の公式ホームページに是非掲載してほしいです。」
「授乳室があるかどうかを調べたけれど授乳室の有無が分からない→不安だから出かけるのをやめる」という形での利用者の途中離脱も確実に起きていると思われます。つまり、出発前の時点で離脱が起きているのです。
男性の利用という盲点
本調査の回答者の93.8%は女性となっています、男性の育児参加が進む中で「男性が授乳室を使えるか分からない」という問題も浮かび上がっています。
困りごととして「授乳室に男性が入れない(16.4%)」「男性が入ってよいか分からない(13.3%)」「入っていいと案内されていても入りづらい(11.1%)」が挙げられます。
父親がミルクをあげたい場合、あるいは両親で赤ちゃんの世話をしたい場合に、授乳室が「母親専用」として運用されていると、事実上の排除が起きる=これも施設利用の途中での「行き詰まり」を生む要因ではないでしょうか。
施設運営者の皆様へ|利用者の声から読み取れること
このデータが示すことを、施設運営の視点で整理すると以下のようになる。
① 授乳室の「有無」は来店・来館動機に直結する 97.9%の子育て世代が「授乳室・子連れトイレがある施設を優先する」と回答していています。授乳室の有無は、集客上の明確な差別化要素となっています。
② 設備の「質」も問われている ベビーカースペース、シンク、フック、空調——これらが揃っていない授乳室は、あっても「使えない」と評価される可能性が高くなります。設置する前に十分な検討が必要です。
③ 「見つけやすさ」が使われる条件 フロアマップ・ホームページへの掲載、入口の案内表示——情報の整備なしには、授乳室は存在しないも同然になります=来店・来館を避けられてしまいます。
④ 地域格差への意識 地方エリアの施設ほど、授乳室が「唯一の選択肢」になりやすく、設置の優先度を地域の文脈でも考える必要があります。
おわりに
「授乳室がなかった」というのは、単なる不便の話ではありません。その日の外出を切り上げ、あるいは次回の外出を断念させ、場合によっては施設全体の利用離脱につながるものです。
子育て世代の行動はこれほどまでに、施設環境の質に左右されているのです。
1万人超の声が示すのは、授乳室ひとつが、外出の継続か離脱かを分ける分岐点になりうるということだと思います。
授乳室は、単なる福利厚生設備ではありません。子育て世代の「滞在時間」「回遊」「再来訪」に直結する、“選ばれる施設”のインフラになりつつあります。
私たちは、施設側のコスト負担を抑えながら導入できる設置型授乳室を通じて、子育て世代が安心して外出できる環境づくりを支援しています。
この記事を書いた人

- 子育て経験を活かして設置型授乳ブース「Babypeko®」の導入支援を行っているGREATEST DAY株式会社の代表取締役CEOです。ママ目線から授乳室事情や子育て、女性の働き方などについて綴っています。GREATEST DAY株式会社代表取締役CEO/授乳・キッズスペースコーディネーター
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