はじめに:育児を取り巻く環境の変化
私たちが子育てをする今の時代は、情報も育児支援のツールもかつてないほど豊かになりました。一見「昔よりずっと楽になった」と感じることでしょう。先輩ママたちのリアルな声や専門家のアドバイスがSNSにあふれているのも事実です。
しかし、保育士として、母親として日々子育てに向き合ってきた私にとって、その言葉には違和感があります。便利さが増しているはずなのに、心の孤独や不安は消えるどころか増えているように感じるからです。
「子育ては楽になった」――そう言われると、誰かに「楽をしている」と言われているようで、正直胸が痛みます。子育ての現場は、そんな単純な話ではないのです。今回の記事では、私の体験を通して、現代の子育てのリアルと、私たちに本当に必要な支援のあり方についてお伝えしたいと思います。

情報が希望だった妊婦時代
妊娠中、私にとってインターネットやSNSなどのツールは、これから始まる育児のためのヒントが満載でワクワクしたものでした。ネットショップで可愛いベビー服やベビー用品を眺めたり、育児に関する情報を集めたりして、これから生まれてくる我が子との時間を想像し胸が弾んでいたことを覚えています。でも、それらはあくまで“希望”であって、産後の現実とは大きく違っていたのです。
情報に流され苦しくなった産後時期
子どもが生まれて日々の育児が始まると、状況は一変しました。SNSやネットにあふれる“正しい育児”の情報は、いつの間にか私を苦しめるものになっていったのです。
子どもについては「この時期にはこうした方がいい」「こういう発達が理想的」そんなメッセージが嫌でも繰り返し目に入り、自分の子どもや自分のやり方がそれと違うと「大丈夫かな」「間違っているのかな」と感じてしまったのです。また、夫に対しても入ってくる情報と比べてしまい、「やってくれないこと」にばかり目を向けてしまっていました。
そんな状態だったので、実母からのアドバイスも素直に受け入れられませんでした。「ネットではこう書いてあったから」とつい反発してしまったり、違う育児法をされてイライラしたりすることもありました。けれど今振り返ると、それはすべて私を助けよう、力になろうとしてくれていたからだと理解できます。
当時の私は「自分の育児」について考える余裕もなく情報に押し流され、心の余裕がなくなり、そこに気づけなかったのです。
心が軽くなったきっかけ
我が子がお座りできるようになった頃、バランスを崩して頭をぶつけてしまったことがありました。外傷はなかったのですが、泣いている娘を見て「私の不注意でごめんね…」という罪悪感と、過去にネットで見た「頭をぶつけたときのリスク」や「すぐに病院に行くべきチェックリスト」などの情報が一気に押し寄せ、不安でいっぱいになりました。
そんな時、近くにいた私の母が、「元気に遊んでいるなら大丈夫よ。子どもなんて転ぶし、ぶつけるし…。もし心配なら、調べるより病院で見てもらった方が安心できるんじゃない?」と声をかけてくれたのです。
幸い子どもは泣き止み、遊び始めてくれたので様子を見ることにしました。落ち着いて冷静になれた頃、母の言葉を思い出し「情報にばかり目を向けていて、今ここにいる我が子と向き合っていなかったかもしれない」とハッとさせられました。
そんな気づきを得てからは、「あぁ…この子は、この子。情報で我が子を判断していたかも」と少しずつ私の考え方が変わり、情報の「活用」と「依存」は違う、という意識を持つようになりました。もちろん情報は助けになります。でも、「わが子の様子をよく見る」「一緒にいる大人の直感を信じる」「一緒に育てている人と相談する」ことの方が、よほど確かな指針になると今では感じています。
自分らしい育児って何だろう?

その中で、入ってくる情報は手段のひとつでしかなく、子育てに「正解」はないことに気づけました。正解がないからこそ、いろんな考えに触れながら、試行錯誤してトライアンドエラーを繰り返しても良いのだと思えるようになったのです。
大切なのは、私たちが自分の価値観や家族のあり方に向き合いながら、自分らしい育児の道を見つけていくことだと思います。その過程で、「大人もまた育っていくんだな」…そう考えられるようになってから、子育てが楽しくなりました。
もしあの時の気づきがなく、情報に流されて罪悪感や不安で思い詰めてしまっていたら?と思うと、子育てにはもっと立ち止まって考えられる時間と心の「余裕」が必要だと感じます。
おわりに
女性も働くことが当たり前になってきた今もなお、母親中心の子育て、そして仕事…と、余裕がない日々を過ごす方も少なくないと思います。昨今は情報やツールの進歩によって情報に溢れ、良い情報・不安を煽る情報関係なく、求めていなくても入ってきます。しかし、それでは私のように情報に不安感を募らせ、罪悪感の拭えない子育てに陥ってしまうリスクもあると考えます。
実際に私も、余裕がない中「安心して子育てをしたい」と願いながら、情報に子育ての正解を求めた結果、罪悪感や不安が募る負のループに陥ってしまいました。子育ての当事者としてこれまでの経験を通して思うことは、子育てにはもっと立ち止まって考えることができる時間と心の「余裕」を作るための支援が必要なのではないかということです。
そして、その余裕を作り出すのはネットに溢れかえった情報ではなく、身近にいる家族、地域、社会――。子育て世代を取り巻く “リアル”な空気感や顔を見合わせて対話ができる支援が広がっていってほしいと願っています。
この記事を書いた人

- 保育経験や育児経験、起業経験を元に、子育てやビジネスに関する記事を中心に執筆しています。また、撮影も行う取材ライターとして、飲食店オーナー様や起業家様の元へ赴き「人の実体験から生まれるストーリー」を発信するお手伝いをしています。子育て世代に向けて、体験を通して学びを深める活動にも力を入れています。
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