赤ちゃんと私、そして授乳室が結ぶ小さな社会との絆

大人としゃべりたいだけなのに赤ちゃんと二人きりの日々で

朝起きて、おむつを替えて、授乳をして、また眠らせる……。娘がまだ赤ちゃんだった頃、一日の終わりにふと振り返ると声に出した言葉は「よしよし」「お腹すいたのかな?」といった、赤ちゃんへの語りかけや子守歌だけでした。そんな日が続くと、ふと寂しさがこみ上げてきたことを今でも鮮明に覚えています。

もともと保育士として働いていた私。当時は同僚との何気ない雑談も、保護者との相談も、子どもたちとのにぎやかなやりとりも当たり前の日常でした。特に同僚とは、子どもたちの成長について語り合う時間がたくさんありました。

「○○ちゃん、今日初めて一人で靴を履けたのよ」「△△くん、お友だちと仲良く遊べるようになったね」「こんな環境にしたら子どもたち喜ぶかな?」そんな子どもの成長を思いながら交わしていた会話が、毎日の充実感につながっていました。

もちろん、我が子は可愛くて、愛おしくて、この上なく大切な存在であり、娘との時間は、それはそれでとても幸せな時間でした。しかし、時々こう思うこともあったのです。「私だって、誰かに話しかけてもらいたい。返事が返ってくる会話がしたい。笑い合ったり、共感し合ったりする時間が欲しい」と。

赤ちゃんと一緒の生活、気づいたら誰とも会話していなかった

産後の生活は想像以上に孤独でした。夫は仕事で日中は不在、夜も帰りが遅かったのです。実家は近かったですが、両親は日中仕事で不在。赤ちゃんのお世話で精一杯の毎日で、気づけば、一日中誰とも会話しない日も珍しくありませんでした。

スーパーで「ありがとうございます」と店員さんに言うのが、その日初めての他人との会話。そんな自分に驚いてしまいました。保育士として毎日たくさんの子どもや保護者、同僚と接していた私が、郵便物の受け取りすら貴重なコミュニケーションの機会になっていました。

また母親になる前は、気軽に思い立ったら外出することが多かった私にとって、子どもが生まれてからそうした「普通の日常」が、とてもハードルの高いものになっていました。

ママだって社会とつながっていたい、だから外に出たい

「ママになったんだから我慢しなさい」という声が聞こえてきそうですが、ママだって一人の人間です。社会とのつながりを求める気持ちは自然で、健全なものだと思います。

娘が生まれてから、私自身の行動範囲は家とその周辺に限られ、時間は赤ちゃん中心に回りました。それは当然のことでしたし、愛する我が子のためなら苦ではありませんでした。でも、時には違う景色を見たい、違う空気を吸いたい、違う刺激を感じたいと思いました。

外に出ることで得られるものは、単なる気分転換だけではありませんでした。店員さんとの何気ない会話、同じく子連れのママとの育児あるあるについての会話…。そういった小さな社会との接点が、私をほっとさせてくれました。

赤ちゃん連れでお出かけするときの最重要ポイントは…

しかし、赤ちゃん連れで外出することは想像以上に大変です。娘が赤ちゃんだった頃のお出かけ先選びの最重要ポイントは、「授乳室があるかどうか」「おむつ替えができるかどうか」でした。

授乳のタイミングは赤ちゃん次第で、いくら大人が見通しを立てて計画的に外出しても、授乳のタイミングはズレてしまうことがほとんどでした。そんな時期に、「いざとなったらあそこで授乳できる」と授乳室の場所が把握できているという安心感は、外出へのハードルをぐっと下げてくれました。

「1時間後にはあのお店の授乳室で授乳して、その後カフェでお茶しよう。もしタイミングがずれてしまったら、近くで時間を潰していよう」そんなふうに具体的なプランを描けるのも、授乳室があったからこそでした。

授乳室があるお店やショッピングモールなら、赤ちゃんが泣き出しても慌てずに済み、周りの目を気にしながら急いで帰る必要もありませんでした。落ち着いて授乳でき、おむつ替えもできました。ママにとって、これほど心強い味方はありません。

こうした授乳室の存在が、娘が赤ちゃんだった頃の私の行動範囲を広げてくれたことは間違いありません。カフェでのんびりお茶を飲んだり、本屋で久しぶりに本を手に取ったり、友人とランチを楽しんだり…。授乳室があることで、母親になっても安心して「外の世界」を楽しむことができました。

小さな外出が、大きな充実感をもたらす

たった2時間のお出かけでも、家に帰る頃には心が軽やかになっていました。店員さんと交わした「かわいい赤ちゃんですね」という何気ない会話、カフェで飲んだ久しぶりのラテの味…。そんな小さな出来事の積み重ねが、育児の孤独感を和らげてくれました。

授乳室は単なる設備ではなく、ママたちを社会とつなぐ大切な架け橋だなとその頃感じていました。授乳室の設備も年々充実してきているのを実感していました。

育児中のママの「外に出たい」という気持ちは、決して贅沢な願いではありません。それは人間として自然な欲求であり、健やかな子育てのために必要なものです。そして、授乳室の存在が、その願いを叶えるための確かな支えになっていました。

娘も成長したので今は授乳室を必要としなくなりましたが、それでも近くを通るとちょっぴりあの頃を思い出して懐かしい気持ちになります。授乳室があったからこそ、私は社会とのつながりを保ち続けることができました。娘と私、二人の心を支えてくれたあの場所に、「ありがとう」と伝えたい気持ちでいっぱいです。

この記事を書いた人

Shiho
Shiho
保育経験や育児経験、起業経験を元に、子育てやビジネスに関する記事を中心に執筆しています。また、撮影も行う取材ライターとして、飲食店オーナー様や起業家様の元へ赴き「人の実体験から生まれるストーリー」を発信するお手伝いをしています。子育て世代に向けて、体験を通して学びを深める活動にも力を入れています。
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